LJLの2021年をまとめて振り返る。DFMの躍進を始めとした,あまりにも大きなWorldsへの一歩

スポーツには、決して忘れられない年というのがある。
例えばサッカーでいうところの、1998年、『ドーハの悲劇』、ラグビーの2015年、『ブライトンの奇跡』のようなものだ。

そして今年、2021年。この年は『League of Legend Japan League』(以下、LJL)、引いては日本の「リーグ・オブ・レジェンド」史において、決して忘れられない一年となる出来事があった。
それこそは『レイキャビク歓喜』。アイスランドレイキャビクにて、日本代表チームであるDFMが、前人未踏の領域にまでその駒を進めたのだ。

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国内大会であるLJLでは、kinatu選手Nemoh選手といった、数多の新人が成果を出し、世界大会であるMid Season Inbitational(以下、MSI)やWorlds Chanpionshop(以下、WCS)では、歴代の日本代表が辿り着けなかったステージまでDFMが歩みを進めた


LoLは非常に競技性の高いタイトルであり、esportsとしての歴史は約10年。大会規模も単一タイトルとしては世界最大のものが毎年行われている。

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そんなゲームだからこそ、非常に競技シーンの見応えは高く、全世界のプレイヤーが熱狂する。実際今年の世界戦における最大同時視聴者数は、なんと4、018、728人。まさにこの数字がLoLの競技シーン人気を物語っているだろう。

そして先ほども語った通り、今年は日本のLoLの競技シーンが非常に盛り上がっていた。
今回はそんな今年、2021年がどういった一年だったのか、当時の熱狂と共に振り返っていく。


LJL 2021 Spring & Summer AXZ RJから始まる新人選手の躍動

LoLやVALORANTといったeスポーツに限らず、ことスポーツの界隈において、新人の活躍ほど熱狂するものは無い

しかし、新人というものは、得てして苦境に立たされるものである。このLoLというゲームにおいてもそれは変わらない。チームとしての動き、意思疎通の取り方、どのタイミングで仕掛けるのか、または仕掛けないで動いていくのか。そういった部分はプロとして活動していく中で、試合によって研ぎ澄まされていくものだからだ。新人の経験値の低さというのは、このゲームにおいては致命的であるとさえ言える。
しかし今年のLJLは違った。そんな新人が多く起用され、また活躍した年なのだ。

今年は3チームが新人、及びLJLの出場経験が無い選手をスタメンとして登録していた。RascalJesterAXIZCrest Gaming Actがそれにあたる。
その中でもAXZは、チーム5人のうち3人がLJLデビューの選手で構成されていた。チームに新人を入れる時、連携が重要なLoLの競技シーンでは、大概の場合において1人、多くても2人というのが基本なのだ。そういった面から考えても、かなりチャレンジングな起用であったことは想像に難くない。
そして、新人を入れたチームは例年、最初の勝ち星を挙げるのが難しくなる。先にも言った通り、連携が重要なLoLにおいて、経験の無さは大きなハンディに成りうるからだ。しかしAXZは、いきなりその勝ち星を挙げて見せたのだ。

春に行われた日本の国内大会、LJL2021 Spring Splitの初週のことである。AXZはいきなり勝負をしかけた。新人midレーナーであるMegmiin選手が得意のゼドをピックしたのである。

ゼドは、あまりプロの試合において見られるようなピックでは無い。戦闘能力は非常に高いのだが、いかんせん汎用性や柔軟性に欠けるからだ。
しかしそれでもAXZはゼドを選んだ。新人ばかりで構成されたチームであるからこそ、得意なキャラクターを使わせ、まずは選手の長所を伸ばすのだ、という方針を明らかにしたのである。
しかも対面はあのFukuoka SoftBank HAWKS gaming所属の Dasher選手。韓国出身の精強な選手であり、そのフィジカルの高さで何度もチームを勝利に導いてきた、LJL屈指のmidレーナ―だ。そのDasher選手に対して、新人が真っ向から向かっていくというのは、生半可な覚悟では出来ないことだろう。

しかし、Megmiin選手は見事それに応えて見せた。あのDasher選手を完全に抑え込んだのである。
対面する選手を悉く捻じ伏せて来た彼に一切仕事をさせず、試合のペースを握り続けたのだ。

さらにAXZは、新人の課題とも言われる連携面や試合運びにおいても、解説陣が舌を巻くほど安定していた。ベテランでさえ迷い、時には間違う判断さえも、彼らはしっかりと正解を選び取り、遂行して見せたのだ。
そして彼らは勝利を飾った。新人を3人抱えながらも、それぞれが他のベテランと遜色無い役割をこなし、プロにおいて初の勝利を挙げたのである。LJLで燦然と輝く未来の光、そういったものを感じざるを得ない劇的な勝利であった。

その後もAXZは躍進を続ける。春の大会に続く夏の大会、LJL2021 Summer SplitにおいてはNemoh選手の活躍が兎に角光っていた。特に彼が得意とするキャラクター、スレッシュを扱う時は必ず試合をひっくり返すプレイを見せてくれた。特に印象的なのが、Summer Splitの第四週にあった試合だろう。


今年のベストプレイにも数えられるこの試合では、三回連続で相手の主要なアタッカーを拘束するスキルを見事に命中させている。このスキルは非常に判定が細く、また相手選手からも当然のように警戒させるスキルであるため、プロ相手に当て続けるのは至難の技だ。

しかしそれをNemoh選手は当然のように当てて見せたのである。それも連続で。
間違いなくNemoh選手の扱うスレッシュは、この集団戦における立役者であった。

そしてAXZの新人が活躍する一方で、RJでも同様に新人が大活躍していた。その選手の名はkinatu18歳のLJL最年少プレイヤーである。
彼の活躍は目覚ましいものだった。初戦こそ競技シーン特有の戦術にやられ、執拗に狙われる羽目になり苦しんだものの、その後メキメキと頭角を現していった。
そしてそんな彼のスーパープレイが見られたのが、Spring Splitの第三週、CGA戦での一幕だ。

時間は12:21秒。拮抗した試合の中盤、大きなオブジェクトであるドラゴンを巡った集団戦であった。

相対するCGAが固まった瞬間、横からkinatu選手が操るナーが突っ込む。当てるタイミングが非常に難しいとされるナーのアルティメットスキルによって、完全にCGAの4人をその場に縫い留めたのだ!なんとかCGAも状況を覆そうとするも、この展開を作られてしまってはもうどうしようもない。完璧なタイミングで放たれたkinatu選手のスキルが、この集団戦の勝利を形作ったのだ。

2021年夏の大会では、AXZは全8チーム中3位、RJは2位という非常に好成績を残している。そして勝利した試合は、新人の活躍を強く感じられるような内容ばかりだった。来年、彼らがどのような活躍をしてくれるのかが今から楽しみで仕方がない。


MSI 2021 DFMvsC9、DWG 王者の喉笛に食らいついたアンダードッグ

LoLの競技シーンにおいて、世界大会は春夏の二度開かれる。そのうち、春に開催されるのがこのMSIだ。世界各国の地域で開催されている春の大会で、一位を獲ったチームだけが出場資格を得る。2021年、日本からはDetonatioN FocusMeが出場した。

世界大会においては、今までの戦績から各地域にはある程度の序列がある。北米、ヨーロッパ、中国、韓国といった地域は、4大地域と称されており、それ以外の地域と大きな実力差があるとされているのだ。
では日本という地域はどうなのか。端的に言うと、非常にナメられていた
先に挙げた4大地域以外の地域を含めても最弱。どんなチームもここには勝って当たり前。負けるのは恥である。2018年に惜しい所まではいったものの、大した成績も残せない、ただのアンダードッグ(負け犬)だと。

しかしDFMは、この2021年のMSIにおいて、二度我々に希望を見せてくれた。かつて戦い、その度に4大地域の強さを見せつけてきた北米の雄、Croud9戦と、前年度世界大会王者、韓国代表DWG KIAとの戦いである。

まずはC9戦を振り返ってみたい。


序盤から有利を握るDFM。しかし今までの国際戦では、握った有利を上手く生かすことが出来ず、あと一歩のところで勝ちきれない試合が続いていた。

しかし今回のDFMは違った。迷うことなくKazu選手、Steal選手が仕掛け、それに応えるようにEvi選手、Aria選手、Yutapon選手がダメージを出す。時には甘い部分をC9に叩かれもしたが、それでも概ねDFMのペースで試合は進行していた。


そして迎えた30:23秒の集団戦。相手の敵陣深くに切り込んだKazu選手のアリスターに合わせるように、敵陣の最奥にまで飛び込んだYutapon選手のカイサ。彼の使うキャラクターは、ダメージが出るものの非常に脆い。しかし高い機動力を生かし、自身が囮になるように相手の攻撃を誘い、釣り出し、C9の陣形を完全に崩す。そして前に出過ぎた所を、Evi選手が扱うナーの範囲攻撃で横から封殺。DFMは理想的な集団戦を構築し、見事北米代表のC9相手に大金星を挙げたのだ。

勝利直後のYutapon選手のtweet。国内のみならず海外のLoLファンからもリプライが寄せられている

そして続くDK戦も見ていこう。

先ほども書いた通り、このDKというチームは昨年夏の世界大会で優勝を果たしており、名実ともに世界最強のチームと言っても遜色無い。

そんなDKを相手に、DFMはなんと主導権を握り続けた。非常に重要なオブジェクトであるバロンを立て続けに獲得し、試合終盤においては圧倒的に有利な状態でゲームを終わらせられる状況にも立った


しかし、足りなかった。

王者の喉笛を噛み砕くには、後一手届かなかったのだ。



Aria選手の使うゾーイのとんでもないダメージが、DKにとってダメージの要であるGhost選手のザヤを打ち抜いた。そしてそこにドンピシャの位置へEvi選手の使うアーゴットがスキルを放つ。これが当たればGhost選手が倒され、完全に勝ちが決まるような、完璧な一手だった。

しかし、それを阻むのがDKが王者たる由縁。Cynyon選手の使うモルガナ。このキャラクターは味方にかけられたスキルの効果を一部無効にするスキルを持っていて、そのスキルをこの上ないタイミングで使われてしまったのだ。これによってGhost選手は生存。前がかりになったDFMは、DKにおけるキャプテン、ShowMaker選手の扱うビクターによって、為すすべなく倒されてしまった

最後の一手、これさえ決まれば王手というタイミングで、あまりにも痛烈なカウンターを食らってしまったのだ。選手の中にも多少の焦りがあったのかも知れない。しかし、それもその筈である。見てるだけのこちらでさえ心臓が痛くなるほど緊張していたのだ。判断に誤りがあってしまったとして、誰が彼らを攻めることが出来ようか。


しかし、これはあまりにも凄い出来事なのである。負けはした、確かに負けはしたのだが、相手は誰だ?前年王者のDWG KIAだ!アンダードッグ、負け犬と称された彼ら日本代表が、その喉笛に食らいつき、絶命まであと一歩の所までその牙を食いこませたのだ!

この一件を見て、LJLファンは思ったはずだ。きっと彼らなら、世界でも何かを見せてくれると。この上無い期待に胸を膨らませたはずである。



WCS 2021予選 日本代表DFM、本選出場という前人未到の快挙

そして迎えたWCS2021。LoLにおいては最大規模の大会であり、この大会を制することは全選手の悲願ともされている。
LJLのSummerを制したDFMの前に立ちはだかるのは、かつて日本代表に辛酸苦汁、そしてあらゆる困難を浴びせかけたロシアのUnicorns Of Loveに、トルコのGalatasaray Esports、強豪国台湾代表のBeyond Gaming、そして何かと因縁のある北米代表のCroud9であった。

今年のDFMは世界戦でも通用する。そんな予感を抱いて始まったWCS2021予選。日本は好成績を上げた。一試合目はC9を相手に惜敗するも、続くUOL、GE、BGに勝利。しかも殆ど完勝と言っていいような内容であった。
日本が国際戦で三勝を挙げる。それだけでも数年前からでは考えられないことだ。そして勝負は、同じく三勝したC9との一位決定戦へもつれ込む
ここでの一位通過は即ち予選ブロックを抜け、本線への出場を意味する。本線には、先程上げた四大地域以外は過去に2回しか抜けたことが無い。非常に狭き門へであり、あらゆるチームの悲願とされる目標である。DFMは、その門へと挑戦する権利を与えられたのだ。

しかし相手は初戦に負けたC9。過去に下した実績はあれど、四大地域の一角である彼らは、一筋縄では行かない相手である。


そして、運命のゲームが始まった。





この試合は、常に拮抗していた。最初に有利をとったかに思えば、C9が返し、C9の隙を見つけてはDFMが刺し返す。そんな展開が続いていた。特に問題だったのが、C9のjgであったBlaber選手。彼の使うオラフが非常に育ってしまい、手の付けられない状態になっていた。

C9の扱うチームの構成は、戦う前に相手を消耗させる構成。勝つには消耗させられるより前に戦いを始めるしかなかった。しかしBlaber選手が育っていることにより、その戦いに持ち込んでも上手くいかないような戦況が続いていた。
そしてそんなBlaber選手の攻勢を活かし、C9は倒すとチームに強力なバフを付与できるモンスターを立て続けに討伐。大きなリードを手にしていた。

しかしDFMは、その大差を埋めるために賭けに出た。試合終盤に現れる強力なオブジェクトであるエルダードラゴンを奪取するため、敵陣の深くに攻め入ったのだ。エルダードラゴンの前を陣取っていたC9は、そのDFMの攻勢に陣形を崩してしまう。C9のValcan選手とZven選手が慌てて切り替えすも、動きを止めたところをSteal選手が使うシン・ジャオが突っ込み、完全に集団戦の形を分断する。そこから前に出過ぎたValcan選手、Blaver選手を討ち取り、DFMにとって勝利を呼び込むためにどうしても必要だった、エルダードラゴンの奪取に成功したのだ


そしてそのまま敵陣の最奥に攻め込むDFM。C9も負けじと応戦し、エルダードラゴンによって付与されたバフが切れるまで時間を稼いでいく
バフが切れるまであと15秒といったところで、Evi選手の使うセトがアルティメットスキルによって完璧にBlaber選手、Zven選手を捉えた。そのままなだれ込んでいくDFM。強力なバフを有したまま集団戦に持ち込んだDFMは、陣形の崩れたC9の面々を呑み込んでいき、そのまま敵本陣を破壊。見事勝利を掴んだ

そう、この日、DFMは悲願の本選出場、そして同時にWCS2021のベスト16入りを果たしたのである。

今でもこの試合を思い出すと胸が震える。世界に挑み続け、そしてその度に阻まれ、しかしそれでもなお戦い続けた末の本選出場だ。先にも言った通り、前年まで日本は世界最弱と評されてきた地域。そんな地域のチームが、4大地域以外が出場するのは非常に困難であるとされたWCS本選に進出した__のである。これに胸を打たれない筈が無い。
LJLにて解説を務めるRevolさんが「10/7、10/8、この日を忘れることはないだろうな・・・。」と、試合後発言していたが、これは間違いなくLJLファンの総意であったことだろう。



WCS2021 Group Stage EDG、T1、100Tとぶつかり感じる、未だ高き世界の壁

しかし続く本選では、日本は辛くも惨敗することとなる。

世界大会を三度優勝し、世界一有名なチームとしても名高いT1を筆頭に、後にWCS2021の王者となったEdwardGaming。C9と同じ北米の代表であり、そしてそのC9よりも高い順位で北米のリーグを勝ち上がった100Thieves。本線で当たったどのチームを取ってもめちゃくちゃな強豪であり、あまりにも高い世界の壁にもう一度ぶちあたるような展開になってしまった。

しかしそれでも、筆者はこの結果を誇りたい。いや、誇るべきである。なにせ世界で10億人が熱狂するゲームの、その世界大会において、ベスト16まで日本のチームは上り詰めたのだ。正直、去年までであれば誰に言っても信じてはくれないだろう。それぐらいにあり得なく、本当にとんでもない出来事だったのだ。


彼らDFMは、LJLに希望をもたらしてくれたのだ。俺たちの国は、どんどん高みへ登っていけるんだぜ、と。


LJL2021は、未来への希望を抱かせる大きな大きな一年だった

この2021年は、必ずLJLファンにとって忘れられない一年となるだろう。今年デビューの選手は、間違いなく大型新人で、長く競技に携わる才能を持った綺羅星ばかりであり、その新人たちに対して、偉大なるベテラン揃いのDFMが世界にも通用すると結果を残してくれた

今年はもうオフシーズンとなり、重要な大会は無くなってしまうが、LJLではまだ試合がある。それが「LJL 2021 Scouting Grounds」だ。


これは新たな新人を発掘するための試合であり、前述のkinatu選手Megumiiin選手もここからの登用である。ということは、今年もまた大型新人が出てくる可能性も十分にあるわけである。
日本のLoLの未来は明るい。照らしてくれる光が頭上には満ち、足元には光を求め新たな大型新人が生まれてくる。6年の間、いちファンとして関わり続けた筆者としては、この2021年はきっと何度も思い出してはにやついてしまう最高の年であったことに疑いは無い。
この年を境に、きっとLJLはもっと面白くなる。そんな予感を感じさせながら、筆者は来季の試合を今か今かと待ち望むのであった。